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治療は「何をするか」だけじゃない──回復を左右する“治療者”の力

同じような治療を受けているのに、
安心できる先生のときは楽になりやすく、
不安になる先生のときは症状までつらく感じる。
こうしたことは、実は気のせいではありません。
今回は、「誰が治療するか」が患者さんに与える影響について、わかりやすくお伝えします。
・患者さんとの関わり方を大切にしたい医療職・施術者の方
・心と体のつながりに興味がある方
同じ知識や技術でも、結果が変わることがある
アメリカのある医科大学付属病院で、興味深い出来事がありました。
泌尿器科病棟では、A医師が担当していた頃、患者さんの不平不満が絶えず、治療や医師の態度についてのトラブルが多く起きていました。
ところが、ある日、消化器科病棟からB医師が来て担当になった途端、その状況が大きく変わりました。
患者さんの不平不満は落ち着き、鎮痛剤を求める人も減り、病棟全体が穏やかになったのです。
一方で、新たにA医師が担当することになった消化器科病棟では、またしても不平不満やトラブルが増え、潰瘍が悪化する患者さんまで出てきたといわれています。
ここで注目すべきなのは、単純に「医師としての知識や技術の差」だけでは説明しにくいという点です。
もちろん、医学知識や経験、技術はとても大切です。
ただ、それだけで治療の結果が決まるわけではないことが、この出来事から見えてきます。
つまり、患者さんは治療内容そのものだけでなく、
・どんな態度で接してもらったか
・安心できたか
・信頼できると感じたか
・この人なら大丈夫と思えたか
こうした部分からも大きな影響を受けているのです。
医療や施術の現場では、つい「何をしたか」に意識が向きがちです。
しかし実際には、
“誰が、どんな関わり方で行ったか”も、治療の一部
だと考える必要があります。
これは、患者さん側にとっても大切な視点です。
「この先生の前だと話しやすい」
「ここに来ると少し安心する」
そう感じること自体に意味があるのです。
『治療者という』が患者さんに与える影響
この現象を観察していたモンタナ大学の心理学者ジョン・G・ワトキンス教授は、たとえ知識や経験、技術レベルが同じであっても、治療者の人格が患者さんに大きな影響を与えるとして、
治療的自我(therapeutic self)
という言葉を使いました。
少しわかりやすく言い換えると、これは
「治療者自身のあり方が、治療効果の一部になる」
という考え方です。
つまり、
どんな施術をするのか
どんな薬を出すのか
どんな説明をするのか
だけではなく、
・その人の人柄
・安心感を与える雰囲気
・相手を尊重する姿勢
・言葉の選び方
・表情や声のトーン
こういったものも、患者さんの体に影響を与える可能性があるのです。
これを聞くと、「そんなことまで治療に関係するの?」と思う方もいるかもしれません。
でも実際には、患者さんの体は不安や安心にとても敏感です。
たとえば、治療者に対して
「この先生はちゃんと話を聞いてくれる」
「無理に決めつけないでくれる」
「質問しても大丈夫」
と感じられると、患者さんの緊張はやわらぎやすくなります。
逆に、
「話をちゃんと聞いてもらえない」
「否定された感じがする」
「怖い」
「急かされている」
と感じると、不安や警戒心が強くなります。
この差は、単なる気分の問題ではありません。
安心できると、呼吸は深くなり、筋肉の緊張はやわらぎ、体は回復しやすい状態に近づきます。
反対に、不安や恐怖が強いと、痛みに敏感になったり、症状が強く感じられたりすることがあります。
ここで出てくるのが、
doctor as a medicine(治療者という薬)
という考え方です。
治療者自身が、ある意味では“薬”のような役割を持つ。
この考え方は、医療や施術の本質を考えるうえでとても重要です。
もちろん、人格だけで病気が治るわけではありません。
必要な知識、技術、評価、説明、施術は欠かせません。
ただ、それらをどれだけ持っていても、患者さんに不安や恐怖を強く与え続ける関わり方では、本来の治療効果を十分に引き出しにくくなることがあります。
だからこそ、医療関係者や施術者は、技術を磨くだけでなく、
「自分自身がどんな存在として患者さんの前にいるか」
を見つめ続ける必要があるのです。
患者さんに必要なのは“不安”より“安心と勇気”
プラシーボ効果とノーシーボ効果という言葉を聞いたことがある方も多いと思います。
プラシーボ効果は、安心感や期待によって症状が良い方向へ変化すること。
ノーシーボ効果は、不安や恐怖、悪い思い込みによって症状が悪化したり、改善しにくくなったりすることです。
興味深いことに、この2つには脳の同じ領域が関わっていることが分かっています。
つまり、同じ脳の仕組みが、
安心によって回復を後押しすることもあれば、
不安によって症状を悪化させることもある、
ということです。
ここから考えると、患者さんにどんな言葉をかけるか、どんな空気をつくるかは、とても大切です。
たとえば、同じ状態を説明するにしても、
「かなり悪いですね」
「これは長引くかもしれません」
「もう年齢的に仕方ないですね」
といった言葉ばかりを受け取れば、患者さんの中には不安やあきらめが強くなってしまうことがあります。
もちろん、事実を正確に伝えることは重要です。
根拠のない楽観論を言うべきではありません。
でもそれと同時に、
「今の状態をどう理解すればよいか」
「どうすれば少しずつ回復を目指せるか」
「必要以上に怖がらなくていいことは何か」
を伝えることも同じくらい大切です。
患者さんに必要なのは、ただ病名や状態を知らされることだけではありません。
“これなら前を向けそう”と思える安心感や勇気
が必要なのです。
施術の現場でも同じです。
強い刺激や難しい説明だけが価値ではありません。
むしろ、
・落ち着いて話を聞く
・相手の不安を受け止める
・できていることにも目を向ける
・少しの変化を一緒に確認する
・必要以上に怖がらせない
こうした積み重ねが、患者さんの脳と体の反応を変えていくことがあります。
これは決して精神論ではなく、実際の回復力に関わる大切な土台です。
だからこそ、治療者にとっては、技術や知識だけでなく、
安心を与えられる人であること
勇気を引き出せる人であること
も、とても大きな意味を持ちます。
そして患者さんにとっても、「誰に診てもらうか」は軽く考えない方がよいポイントです。
信頼できるか、安心できるか、自分の話をちゃんと聞いてくれるか。
それは治療の質の一部なのです。
・治療の結果は「何をするか」だけでなく、「誰が、どのように関わるか」にも大きく左右される
・治療者の人格や態度、安心感を与える関わり方は、「治療者という薬」として患者さんに影響を与える
・患者さんの回復を支えるためには、不安や恐怖ではなく、安心と勇気を与え続けることが大切
治療とは、技術だけで成り立つものではありません。
知識や経験が大切なのはもちろんですが、それと同じくらい、
患者さんにどう向き合うか
が重要です。
「どんな治療をするかより、誰が治療するのか」
この視点は、医療や施術の現場にとって、とても大きな意味を持っています。
患者さんが少しでも安心できること。
前を向けること。
「ここなら大丈夫かもしれない」と思えること。
そうした積み重ねが、体の回復力を引き出していきます。
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